なぜ語源辞典を読んでも腑に落ちないのか
語源を調べていて、こんな経験はありませんか?
- 辞典に書いてある説明は理解できる
- でも「なるほど感」がない
- 実際の使い方と結びつかない
それは、あなたの理解力の問題ではありません。
語源辞典の役割と、日本語の語源の性質がズレているからです。
多くの語源辞典は、
- 語形の変化
- 漢字の由来
- 古語での意味
を中心に説明します。
しかし日本語、とくに感情語は、それだけでは本質が見えてきません。
語源辞典は「構造」を、私たちは「感覚」を読む
語源辞典が扱うのは、主に次のような情報です。
- どの語がどの語から派生したか
- 漢字はいつ当てられたか
- 文献上の初出
これは「言葉の骨格」を知るためには重要です。
一方、私たちが日常で言葉を使うときに頼っているのは、
- どんな感じがするか
- どんな場面で自然か
- どんな気持ちを含んでいるか
という感覚の情報です。
語源辞典には、この感覚の部分がほとんど書かれていません。
日本語の語源は「意味」より「動き」で読む
日本語の語源を理解するコツは、定義ではなく、動きとして読むことです。
たとえば次の感情語を見てみましょう。
① くるしい
語源辞典的説明
→ 古語「くるし」=苦しい状態
これだけでは終わりです。
感覚で読むと、
- 胸が塞がる
- 息が詰まる
- 内側から圧がかかる
👉 だから
身体的苦痛 → 心理的苦悩 → 人生が苦しい
へと意味が広がったことが見えてきます。
② かなしい
語源辞典的説明
→ 古語「愛し(かな)」に由来
これも説明としては正しいですが、重要なのはここからです。
- 愛しい
- 離れがたい
- でも離れねばならない
👉 だから
「かなしい」は単なる悲しみではなく、
愛情が断ち切られる痛みになります。
語源を読むときの3つの視点
語源辞典では拾えない部分を補うために、
次の3点を見ると、語源が一気に立体化します。
① 身体感覚から始まっているか
日本語の多くの感情語は、最初に身体の状態を表していました。
- 痛い
- 重い
- 塞がる
- 切れる
➡「いたい」の語源
➡「おもい」の語源
➡「せつない」の語源など
② 心理への比喩拡張があるか
身体の感覚は、そのまま心の状態を説明する比喩になります。
- 胸が苦しい → 心が苦しい
- 支えがない → 不安
- 切れる → せつない
③ あいまいさを残したまま定着しているか
日本語は、感情を厳密に切り分けません。
- ものがなしい
- なつかしい
- いとしい
理由を説明しないまま、感じたまま置いておく言葉が多いのです。
語源辞典と併用すると見え方が変わる
語源辞典は、決して不要ではありません。
- 形の変化を知る
- 歴史的な裏付けを取る
- 誤解を避ける
これらには不可欠です。
ただし、
語源辞典=答え
ではなく、
語源辞典=地図の凡例
と考えるとちょうどいい。
実際の地形(感覚)は、自分で歩いて確かめるものだからです。
このサイトが語源辞典と違う点
『言葉のたね帳』では、語源を次の順で読み解きます。
- 身体・感覚の原点
- 心理への広がり
- 現代の使われ方
- 似た言葉との違い
だから、
- 「違い記事」が多い
- 感情語が多い
- 例え話が多い
という構成になっています。
まとめ:語源は「感じ方の履歴」
語源とは、
- 昔の意味
- 正解の定義
ではありません。
それは、
人がどう感じ、
どう言葉にし、
どう感情を残してきたか
という感じ方の履歴です。
語源辞典で骨組みを知り、感覚で肉付けする。
この読み方を知ると、日本語はぐっと生きたものになります。

