「やさしい」「いたわしい」「いとしい」は、人への思いやりを表す言葉として使われます。
似た意味に感じられますが、場面によってしっくりくる言葉は微妙に異なります。
語源をたどると、この三つは人との距離や関わり方の違いから生まれた言葉であることがわかります。
心をゆるめること、痛みに触れること、強く引き寄せること——それぞれ異なる感覚が起点でした。
本記事では、「やさしい」「いたわしい」「いとしい」の語源を比較し、日本語が思いやりをどう分けてきたのかを読み解いていきます。
やさしい・いたわしい・いとしい|まず結論から
- やさしい:
👉 相手の心をゆるめ、安心させる態度 - いたわしい:
👉 相手の痛みや弱さに触れ、分かち合う感情 - いとしい:
👉 手放したくないほど心が強く引き寄せられる感情
三つはすべて思いやりですが、向かう距離と深さが異なる言葉です。
「やさしい」の語源と原感覚
語源は「安し(やすし)」
「やさしい」の語源は、古語の「安し(やすし)」です。
もともとは、
- 心が落ち着く
- 安らぐ
- 危険がない
といった、安心の状態を表す言葉でした。
相手を“楽にする”感覚
「やさしい」は、
- 声がやさしい
- 言い方がやさしい
のように、相手の緊張を下げる働きを持ちます。
距離は近すぎず、相手が安心できる余白を保つ言葉です。
「いたわしい」の語源と原感覚
語源は「痛はし」
「いたわしい」の語源は、古語の「痛はし」にあります。
これは、
- 痛みが心に迫る
- 見ていられない
- 胸が締めつけられる
といった、他者の痛みが自分にも伝わる感覚を表していました。
共感の痛み
「いたわしい」は、
- 弱っている人
- 傷ついた存在
に向けて使われます。
相手を楽にするというより、痛みを共有してしまう感情です。
「いとしい」の語源と原感覚
語源は「いとし(甚し)」
「いとしい」の語源は、古語の「いとし」にあります。
「いと」は、
- とても
- ひどく
- 強く
という強調の意味を持つ語でした。
距離が極端に近い感情
「いとしい」は、
- 子ども
- 恋人
- 守りたい存在
に向けられます。
共感や安心を超えて、強く引き寄せ、手放したくない感情が中心です。
なぜ似た意味に見えるのか
三つに共通するのは、相手を大切に思う気持ちです。
しかし語源的には、
- やさしい:心をゆるめる
- いたわしい:痛みを感じ取る
- いとしい:強く引き寄せる
というように、感情の動きが違います。
日本語が思いやりを分けてきた理由
日本語は思いやりを、
- 安心させる
- 共感する
- 抱き寄せる
という 関わり方の違い で言い分けてきました。
そのため、ひとつの言葉にまとめず、三つの異なる語として残してきたのです。
これは
➡「ありがたい」と「うれしい」(準備中)
➡「なつかしい」と「いとしい」(準備中)
の違いにも通じます。
三つの違いを一言でまとめると
- やさしい:
👉 相手を安心させる - いたわしい:
👉 相手の痛みに触れる - いとしい:
👉 相手を強く抱き寄せる
同じ思いやりでも、心の距離が違う言葉です。
まとめ|語源で見る思いやりの輪郭
「やさしい」「いたわしい」「いとしい」は、どれも人に向けられるあたたかな感情ですが、生まれた場所は異なります。
- 安らぐ → やさしい
- 痛みを感じる → いたわしい
- 強く引き寄せる → いとしい
語源を知ることで、思いやりの中にある細やかな違いが見えてきます。

